Aave V4のアーキテクチャ解説:流動性ハブとスポークが変えるDeFiレンディング

Aave V4は、流動性ハブとスポークによる新しい設計を導入し、資本効率の向上と分断の解消を実現します。本記事では、その仕組みと利点をわかりやすく解説します。

Aave V4のアーキテクチャ解説:流動性ハブとスポークが変えるDeFiレンディング
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AAVE公式ブログ記事「Understanding Aave V4’s Architecture」を日本語訳しました。

Understanding Aave V4’s Architecture
Aave V4’s new Hub and Spoke architecture unifies liquidity and enables specialized markets.

Aave V4は、DeFiレンディングの仕組みを根本から変える新しいHub&Spoke(ハブ&スポーク)アーキテクチャを導入します。本記事では、Aave V3との違い、この仕組みの概要、そしてメリットについて解説します。

※Aave V4は現在鋭意開発中です。

Aave v3の基本

まずはじめに、Aave V3のアーキテクチャについて簡単に振り返りましょう。

Aave v3概要

V3において、プロトコルはネットワークごとに独立したマーケットを用いています。各マーケット(Ethereum上のCoreやPrimeなど)は、それぞれ独自の流動性プールと異なる資産構成を持ち、固有のリスクプロファイルを形成しています。ユーザーがAave V3に資産を供給するとき、その資産は特定のマーケットに預けられます。そして、その資産はそのマーケット内でのみ借り入れに利用できます。たとえばEthereum Coreに供給された資産は、Ethereum Coreのユーザーだけが借りることができます。

この構造にはトレードオフがあります。あるマーケットの流動性を、別のマーケットの借入需要に利用することはできません。そのため、新しいリスクプロファイルや独自の機能を持つマーケットを立ち上げる際には、それぞれが流動性を一から立ち上げる必要があり、結果として分断が生まれます。また、借入におけるスケールメリットが制限され、新しい資産のサポートや独自の借入設定の導入も難しくなります。そうした要素は結局、孤立し、使いにくいものになってしまうのです。

これらを踏まえたうえで、次にAave V4のアーキテクチャを見ていきましょう。

流動性ハブの概要

V4では、流動性はもはやマーケットごとに分断されません。その代わりに、ネットワークごとに統合された流動性ハブに全ての資産が集約されます。

Aave v4概要

流動性ハブは、流動性の中枢として機能します。どのスポークがどの資産にアクセスできるのかを管理し、それぞれのスポークがハブから引き出せる流動性の上限を制御します。また、会計上の基本ルール(借入総額が供給総額を超えてはならないなど)もここで担保されます。

ユーザーがAave V4に資産を供給すると、その資産は流動性ハブに格納されます。ただし、ユーザーは直接ハブとやり取りするわけではありません。ユーザーはプロトコルの入口としてスポークとやり取りし、その裏側でハブが機能する仕組みです。流動性ハブはシェアベースのシステムを使って全資産を管理し、計算を効率化するとともに、時間の経過とともに発生する利息を含め、全体を適切な範囲に収めます。

各L1やL2には少なくとも1つのAave V4流動性ハブが存在し、ネットワークごとに複数設置される可能性もあります。スポークは、流動性に制約されることなく、これらのエコシステム内で自由度の高い実験を可能にします。この設計により、新しいリスクプロファイルの導入やイノベーションの推進が容易になり、流動性を分断することなく新しいスポークにシード流動性を供給できるようになります。

スポークの概要

Aave v4スポーク概要

スポークは、ユーザーが直接やり取りするAave V4のコンポーネントです。各スポークは流動性ハブと接続しており、特定の貸出や借入の機能を提供します。ユーザーが資産を供給または借入するときは、流動性ハブではなく、必ずスポークを通じて行われます。

それぞれのスポークには独自のルールやリスク設定があります。ステーブルコイン向け、ステーキングETHデリバティブ向け、あるいはリスクの高い資産向けなど、目的に応じて最適化される場合があります。また、一部のスポークは特定の借入戦略に特化したり、LPシェアのような特殊な担保資産をサポートしたりすることも可能です。

裏側では、スポークが資産の入出金を流動性ハブとの間で処理します。さらに、ユーザーポジションの管理、担保の追跡、価格オラクルとの連携、安全性のための緊急停止機能なども担っています。

V4における特化型スポーク

実際にどのように機能するのか、様々なリスク設定を持つスポークの例をいくつか見てみましょう。

E-Mode

相関性の高い資産(複数のステーブルコインなど)を利用する際に、より高い借入余力を可能にするE-Modeは、特定の資産グループ向けに設定された独立したスポークとして機能します。例えば、ステーブルコイン用のE-Modeスポークでは、USDTを借りるときにUSDCを担保としてより多く利用できるようになります。両者は同じような価値を維持することが期待されるためです。

E-Modeをスポークとして運用することでリスク分離が進み、実装もより明確になります。それぞれのE-Modeスポークは独自に設定・管理でき、相関性の高い資産へのエクスポージャーをコントロールしやすくなります。

アイソレーションモード

新規またはリスクの高い資産を担保として使う方法を制限するアイソレーション(隔離)モードも、専用のスポークとして実装できます。このスポークは独自のパラメータやアクセス制御のもとで運用されます。流動性ハブは、そのスポークが引き出せる流動性に上限を設定することで、どの程度の流動性を提供するかを決定します。これにより、プロトコルは新しいトークンを安全に上場でき、システム全体をリスクにさらさずに済みます。

RWAスポーク

現実資産(RWA)を担保としてサポートするためのスポークも設計可能です。例えば、トークン化された米国債を扱うRWAスポークを構築し、より厳格なアクセス、カストディ、償還ルールを適用することができます。

ボールトスポーク

さらに、担保を直接プロトコルに供給せず、分離されたボールトから借入を行うためのボールトスポークも構築できます。たとえば、ユーザーがSafeに保有する資産を担保に借り入れを行うといったケースです。この場合、リスク管理や担保化はすべてスポーク内で処理されるため、資産を直接ハブに供給する必要はありません。

V4アーキテクチャの利点

このアーキテクチャは、Aaveに新しい設計パラダイムを導入し、それぞれに独自の利点があります。

資本はもう同じチェーン上のマーケットごとに分断されません。その代わりに、すべての流動性が流動性ハブを通じて扱われるため、利用率が高まり、資産を供給する側にも借りる側にもより良い金利が提供されます。ガバナンスも軽量化され、新しいスポークを追加したり既存のスポークをアップグレードしたりしても、システム全体に影響を与えることはありません。

また、このアーキテクチャは、Aave V3や従来のレンディングマーケットでは実現が難しかったイノベーションへの扉を開きます。誰でもスポークを構築でき、そこに価値があれば流動性ハブを信用枠のように利用することで、最大規模のDeFi流動性ネットワーク効果を享受しながら特化型のマーケットを構築できます。

もしスポークの開発に興味があるなら、気軽にお問い合わせください。

Aave情報

Webサイト:https://aave.com/
X(旧Twitter):https://x.com/aave
Discord:https://discord.com/invite/aave


あとがき

Aave V4のアップグレードは、開発者に柔軟な実装を可能にし、その結果としてユーザーにも利点が還元されるものだと言えるでしょう。これはUniswapのv4アップグレードと似た方針です。DeFiは確実に成熟してきていますが、まだ拡張の余地があります。Aave V4の正式リリースが楽しみです。