アプリチェーンにするか、しないか、それが問題だ - Andre Cronje
L2をアプリケーションチェーンとして使うことは合理的なのかについてAndre氏が考えたコラムの日本語訳です。
Yearn FinanceやFantomの功績で広く知られるAndre Cronje(アンドレ・クロニエ)氏のMedium記事「To appchain or not to appchain」の日本語訳です。ブログ記事翻訳部分に関するすべての権利は原作者に帰属します。
旧Fantom、現Sonic Labsアーキテクト兼共同設立者。Yearn FinanceやKeep3rV1の創設者でもあり、他にも数多くの有名DeFiプロジェクトに関与してきたすごい人。
DeFiで最も影響力のあるキーオピニオンリーダーのひとりであり、クリプト文脈で「アンドレ」といえば彼を意味する。
この件は私のあるポストから始まった。
L2をアプリケーションチェーンとして使うことが、ビルダーにとってなぜ非論理的か:
・ステーブルコイン、オラクル、機関向けカストディなど、デプロイ時に必要なインフラがほとんど整っていない
・支援してくれる財団やラボが存在しない
・中央集権的で攻撃の対象となりやすい
・流動性を断片化させ、ブリッジに依存させる
・ユーザーやビルダーのコミュニティがない
・上記の問題に対処する時間がかかり、アプリケーションやユーザーに集中できない
・ネットワーク効果を損なう
・依然として長いTTF(Time to Finality、確定までの時間)、一部のプロバイダーが協力しないことも。
・一人で開発することになる(仲間がいない)
さらに、アプリケーションチェーンはインフラやコンプライアンスのコストを大幅に過小評価している(エクスプローラ、カストディ、取引所、オラクル、ブリッジ、ツールキット、IDE、オン/オフランプ、ネイティブ発行と統合、規制、コンプライアンス)。2024年だけで僕らはこれらに関して既に$14Mかけており、しかもその大部分が繰り返し発生するコストだ。
これをきっかけにいくつか製品をおすすめされたが、その中で特に僕の目を引いたのは次のポストだ(他にもクールなものがたくさんあったけれど):
Zon(@initia共同設立者)からの返信(クリックで展開)
Andre、あなたは真のレジェンドだけど、まだ前のサイクルに囚われているかもしれないよ。
この2年間で無数のチームがこれらすべての問題を解決してきたし、@initia自体もそれらを祭るために作られた。
手短に言うと:今、すべての機能を備えた高速で安価で柔軟なL2を立ち上げるのはこれまでになく簡単なんだ。(@0xkatzをメンションしておく。たぶん数分でリプライが来ると思う)
>デプロイ時に必要なインフラがほとんど整っていない(ステーブルコイン、オラクル、機関向けカストディなど)
- ステーブル
IBC対応チェーンでさえあれば、@noble_xyzがネイティブUSDCとCCTPへのパーミッションレス・アクセスを提供する。@LayerZero_Core、@hyperlane、@AcrossProtocol などがL2にほぼ即時のステーブルやその他資産へのアクセスを可能にする(さらに完全な相互運用性のボーナス付き!すごいよ!)。@kado_moneyのようなフィアットのオンランプもある! - オラクル
@skiprotocolを利用してオラクルをチェーンに組み込める。@StorkOracle、@redstone_defiなどでもすべて即時統合可能だ。 - (ボーナス!)DA
@CelestiaOrgなどのおかげでチェーンの運営コストが非常に安くなる
>中央集権的で攻撃の対象となりやすい
詐欺防止証明は今や標準装備で、@SuccinctLabsを介して、任意のOPスタックチェーンを即座にZKRに変えることさえできる。@eigenlayerも?
>流動性を断片化させ、ブリッジに依存させる
OFTによりトークンはどこでも同じように使える(ありがとう、Bryan!)。@initiaでは、資産はインターワーブンスタックの全てのL2間で互換性がある。
*きなこ補足:インターワーブンスタックとは、異なる技術やコンポーネントが単に相互にやり取りが可能なだけでなく、それらが一体となって機能し、相互に依存し合いながら最適化されていること。
ところで、ブリッジの何が問題なんだろう?FantomのTVLのほとんどもブリッジから来ているよね。
>ユーザーやビルダーのコミュニティがない&支援してくれる財団やラボが存在しない
今サイクルには「モジュラリティ」と呼ばれる大物がある。これらすべてのチームは何年もこの分野で活動してきて、コミュニティを形成してきた。新しいチームの成功も熱心に支援している。
>ネットワーク効果を失わせる
Initia VIPを学んでほしい。
>一人で開発することになる(仲間がいない)
新しいL2がたくさんあるってみんなが騒いでる。それだけ仲間がいるってことだし、アプリがチェーンになるにつれて仲間はもっと増えると思う。今は相互運用性(インターオペラビリティ)があれば、チェーン同士が基本的に対話できるようになっている。
>上記の問題に対処する時間がかかり、アプリケーションやユーザーに注力できない
RaaSプロバイダー(@Calderaxyz、@gelatonetwork、@conduitxyz)なら、チェーンの2^nの組み合わせを提供してくれるよ。
@initiaでは、それぞれのベストをインターワーブンスタックに組み込んでいる:LZ、ネイティブUSDC/CCTP、お好みのVM(EVM/MoveVM/WasmVM)、オラクル、Celestia、フィアットのオンランプなど。手間なく、煩わしさなく、すべてが即時にそのまま使える状態で提供されるんだ!さらにプロダクトツールとしてエクスプローラや開発ツール、ウォレット接続+ソーシャルログイン、ブリッジウィジェットも全部揃ってる。
チェーンを立ち上げてアプリ部分に集中するのはかなり簡単だ。月額1000ドル以下でこれらすべてを提供できるから、試してみたいならDMしてね!
そして驚くべきことに、わずか数分で僕自身のアプリチェーンが立ち上がった。
> I'll tag @0xkatz and i bet we'll see one in the replies in just a few minutes
— Katz 🌋 (@0xkatz) October 14, 2024
He's right. https://t.co/8rKeyeJfKV
技術的に見て、これはとても興奮することだった。これまで触れたことのない新しいソリューションがたくさんあって、僕は新しい技術を学ぶのが大好きだから、どんどん深みにハマっていった。
ネイティブステーブルコイン、オラクル、証明システム、ネットワーク効果、ブリッジ、相互運用性をすべて含んだ自分専用のスタックを持てるなんて、信じられないほど良い話じゃないか。
確かにその通りの部分もあるだろうが、そうじゃない部分もあるはずだ。僕は、まず2つの最大のハードルから始めることにした。それは、ネイティブステーブルコインの発行と信頼できるオラクルだ。最近Sonicの立ち上げでこの作業を経験したばかりで(500万ドル以上かかったんだ)、これらすべてが無料で手に入るという考えに、僕は謙虚な気持ちになると同時に、少し恥ずかしくも感じた。
薦められたものはいくつかあったが、noble.xyzが最も興味深かった。なぜなら、IBC対応チェーンならどこでもネイティブUSDCとCCTPを提供すると謳っていたからだ。しかし、まず最初に、これはクールなプロダクトなんだが、ネイティブUSDCやCCTPではなく、同社のブロックチェーン上で発行された資産をブリッジし、IBC(コスモスエコシステムのインターオペラビリティ)を通じて他の統合されたチェーンに転送するものだ。これは自動でもなければ無料でもなく、ネイティブでもCCTPでもない。LayerZeroやAcrossProtocolなどの他の候補を見てみよう。これらも素晴らしいプロトコルだ。事実として僕たちはLayerZeroとたくさん仕事をしてきたし、彼らの働きは本当に素晴らしいものだ。どのチェーンにも彼らと連携することを強くお勧めするが、こちらもネイティブ発行ではない。細かい話だと分かっているが、ブリッジ周りでこれまで起きたインシデントを考えると、信頼性とスケールに関してネイティブ発行に勝るものはない。もしネイティブ発行を求めるなら、やはりそれ相応の費用をかける覚悟が必要だ。
オラクルについては、skipprotocol、storkoracle、redstone_defiを勧められたが、残念ながらどれもすぐに使えるものではなく、統合が必要だし、費用がどれだけかかるかも不明確だ。そしてここで重要なのはスケールについての視点だと思う。僕の考えでは、L1やL2を立ち上げるほどの労力をかける人なら、トップ50やトップ20、トップ10(取引量、TVL、時価総額など)を目指しているはずだ。これは必ずしも事実ではなく、すべてのアプリがそこまで大きくなる必要はない。僕はKeep3rネットワークでこれを経験した。みんなはそれがYearnのようになることを期待していたが、僕にはそもそもそのつもりはなかった。Yearnは資産運用会社に相当するが、Keep3rはニッチな開発運用ツールで、同じ評価基準は必要ない。だからこの記事も、これらのプロダクトの価値を否定するものではない。どれも非常に素晴らしいものだが、もしArbitrum、Optimism、Solana、Avaxのようなものと競争するためにL2やL1のアプリチェーンを立ち上げるのであれば、これらだけでは十分ではない。
次に、開発ツールとウォレットについて話そう。
これらはどの新しいチェーンにも互換性があるが、ユーザーや開発者はそれらのRPCを手動で設定する必要がある。大したことではないかもしれないが、余計な手間が増えるのも事実だ。
最後にエクスプローラについてだが、Blockscoutは素晴らしい。無料エクスプローラの標準といえる存在だ。ここに特に付け加えることはない、本当に素晴らしいんだ。ただし、有料プロダクトであるetherscanのようなものは、専属のチームがいる分、優位性を持つ傾向がある。
もちろん、これではインターオペラビリティやネットワーク効果の問題は解決しない。例えばUnichainを例に挙げて、もしUniswapがそのチェーンで唯一のものだったとしたら(実際にはそうならないけど、仮にそうだとして)、どれだけの取引量があるだろうか。他のAMMとの裁定取引や、マネーマーケットでのポジションの清算、または他のもっと悪質なフラッシュローンの活動など、どれくらいの取引量があるのか。孤立していれば手数料収入も減るし、結局助けになるのはコンポーザビリティとインターオペラビリティだ。さて、僕はクラスターやスーパーチェーンについても調べてみたが、正直なところ、理解が追いついていないのか(その可能性が高い)、あるいは実際には実現が難しいのかもしれない。
「実際には実現が困難」…数分で自分のL1やL2を立ち上げて、エクスプローラーやRPC、ブリッジなどがすべて揃うという考えは、正直言ってすごい。でも、それって実用的なのか?
Unichainについて見ると(Unichainにばかり焦点を当てて申し訳ないけれど、彼らは大規模なネットワーク効果を持つ数少ない例外の一つだと思うので、しばらく付き合ってほしい)、彼らのチェーンの大きな理由は収益の取り込みにある。以下のツイートを見てほしい(ごめんX、"ツイート"にあたる単語が今何なのか分からないんだ)。
もしEthereumがSonicのようにガス手数料の90%をdAppに還元する仕組みだったら、Ethereum上の主要プロトコルがどれほどの報酬を得ていたのか気になる。
Compound: $30,439,872.62
Aave: $87,609,646.10
Circle: $305,878,808.70
Tether: $972,937,819.80
Uniswap: $2,439,295,129.10
UniswapがEthereum上で発生させ、バリデータが受け取ったガス手数料は24億3929万5129.10ドルに上る。これはMEV(最大抽出可能価値)の抽出を含まない数字であり、シーケンサとしてUniswapがこれを取り込むことも可能だ。つまり、Uniswapが得られたはずの約25億ドルがバリデータに渡っている。これは非常に大きな金額だ。
でも、もっと現実的に解決できないだろうか?自分でチェーンを運営したり、エクスプローラやRPCプロバイダを設定したり、ユーザーや開発者にウォレットや開発ツールでのRPCの設定方法を案内したり、オラクルやネイティブステーブルコインを統合する必要もなく。
僕たちが解決しようとしているのは何か?ネットワークではなくアプリに価値を返すことだ。
それならもっと簡単な解決策があるんじゃないか?クリエイターエコノミーの世界ではすでにほぼ解決されていること、それは収益分配だ。YouTube、Twitch、X、何であれ、みんなクリエイターに収益の一部を与えている。だから、もっと実用的な解決策は、ガス代を単純にアプリに還元することじゃないか?他にどんな現実的な理由があるだろう?確かに、低TTFは現代のブロックチェーンならほぼ解決されている(Sonic、Avax(EVMを使いたい場合)、Solana SVM、Sui MoveVMなど)。スループットも十分高いし、挙げたチェーンのほとんどは現行のLayer 2よりもパフォーマンスが高い。だから問題が速度やスループットではないなら、きっと収益の取り込みに関することだ。Uniswapを責めることはできない。シーケンサ手数料は新たな収益モデルだ(ネットワーク手数料を煩わしい分散型の価値抽出バリデータと分け合うのではなく、自分ですべて得られるわけだから。[冗談、もちろん僕はバリデータが大好きだよ])。
でも、つまり、収益を分け合えばいいんじゃない?面倒なことは全部なくなって、メリットだけが残る。
アプリチェーンは結局、解決すべき問題を探している技術的な解決策のように感じる。誤解しないでほしいんだけど、技術者としてはめちゃくちゃ面白いと思うよ。ただ、実際にものを作る立場から見ると「本当にこれが必要なのか?」って思ってしまうんだ。
TLTR;とあとがき
アプリのためにチェーンを作るのは非合理だと述べたAndre氏に対し、ユーザーが今は簡単にチェーンを立ち上げられると反論(このユーザーはチェーン立ち上げをサポートする側なのでポジトークもあると思う)。それを受けて、Andre氏がメンションされたプロダクトを調べていったものの、やっぱり課題が大きくて割に合わないとひとまず結論づけた話です。彼ほどの重鎮が紹介されたものを素直に調べていったというのが素敵ですね、良い人なんだろうなぁ。
私は「ごく一部に限られるが、アプリチェーンで成功するプロジェクトは出てくる」と思っています。単体でユーザーを惹きつけられ、かつ十分な収益モデルを持ち、チェーン運営の体力・資金力があるというスーパープロジェクトに限られますが。 Uniswapは非常に強力なブランドなので、Andreさん同様、Unichainの動向には非常に注目しています。
追記;
11月29日に実施された$HYPEトークンのローンチで、HyperLiquid(ハイパーリキッド)が実力を見せつけました。Hyperliquidは独自のLayer 1ブロックチェーン上に構築されたデリバティブ取引マーケットで、アプリチェーンです。大規模なエアドロップにも関わらずチェーンは一切停止することなく、マーケットも普段通り動き続けました。また、エアドロップ後にすぐ廃れてしまうチェーンやプロジェクトが多い中、Hyperliquidは数日経った今も活況を保っています。これは、HyperLiquidがエアドロハンターだけでなく、固定ユーザーもしっかり獲得していることを示しています。ユーザーエクスペリエンスが良いので、私自身もHyperLiquidは日常使いしています。今後の更なる躍進に期待が高まります。