Gnosis 3.0:オープンインターネット

DeFiインフラとして進化したGnosisが描く、オープンインターネットの未来図。Gnosis Pay、Circles、Metriがもたらす真の金融主権と参加型経済のかたち。

Gnosis 3.0:オープンインターネット
Photo by Connor Carruthers on Unsplash

マルチシグウォレットで有名なGnosis DAOが、オープンインターネットクラブ(@openinternetclb)という活動を展開しています。そもそも彼らの言うオープンインターネットとは何なのか?Gnosis公式ブログ記事「Building the Open Internet」を訳してみました。原文が長めなので、読みやすさを重視しところどころ意訳しています。


テクノロジーがかえって人々を分断してしまいつつあるこの時代において、私たちGnosisは「技術がもたらす可能性」と「それを人々のために活かすという明確な意志」の両方を体現してきました。2015年に予測市場として始まったGnosisは、やがてDeFi(分散型金融)の基盤へと発展し、いまではさらにその先、真にオープンなインターネットの実現に向けて、歩みを進めています。

Gnosis 3.0は、これまでで最も大胆な進化です。理論上にとどまっていたWeb3の可能性を、日常のユーザーにとっての実用的な現実へと変えていきます。

自己主権型の決済ネットワーク群、信頼にもとづいて個人が通貨を発行するCirclesのようなUIDC(ユーザー発行型デジタル通貨)、そして世界中に展開された安全なクロスチェーン基盤を通じて、Gnosisはただ既存の金融システムに挑むだけではなく、ブロックチェーンの可能性と人類の経済的自由の間に存在する壁を、体系的に取り払おうとしています。価値やアイデンティティを縛っていたデジタルの境界が崩れ、個人が主導する新しい経済が始まろうとしています。

Gnosis 3.0は、Ethereumエコシステムの重要な一員として、Ethereumの精神に深く共鳴する原則「支配なき協調」を体現します。権力がルールを押し付け、他の人々が従うか混乱に陥るしかないような世界において、この原則は今まで以上に重要です。Ethereumが「ワールドコンピュータ」として発展していくには、開発者たちが安心してEthereum上にプロダクトを構築できるだけの信頼が必要です。Gnosisは、イノベーションが中央集権に支配されることなく発展できる場としてのEthereumを守るために、根本的な価値観を支え続けています。

私たちが指標とする価値観

Gnosisが進む道を照らすのは、テクノロジーを超えた価値観です。

金融とデジタルにおける自己決定権:誰もが自らの意思で選択できるよう、オープンでアクセシブルな金融ツールを提供し、デジタル社会での主体性を支えます。

公平性:中央集権的なゲートキーパーや不平等な優位性に左右されることなく、すべての人が経済のあり方に平等に関与できる社会を目指します。

こうした価値観は、それらを実現するためのインフラの上に成り立っています。

信頼できる中立性(Credible Neutrality):すべてのユーザーに対して偏りなくサービスを提供することで、公平なアクセスと機会を保証し、特定の誰かを優遇しないツールを通じて個人の主体性を支えます。

検閲耐性(Censorship Resistance):誰にも妨げられることなく取引し、繋がる自由を守ることは、選択の自由を保障し、恣意的な排除を防ぐことで公平性を維持します。

自己主権(Self-Sovereignty):デジタル資産やアイデンティティに対する所有権と管理権を個人に与えることで、自律的な主体性を実現し、制度的な干渉を受けずに公正に行動できるようにします。

これらは単なる理想ではありません。
私たちが生み出すすべてのソリューションの設計図なのです。

価値観から現実へ:Gnosisエコシステムの歩み

Gnosisは、予測市場として始まったGnosis 1.0から、Ethereumインフラの中核となったGnosis 2.0へと進化してきました。そして今、私たちはこれまでで最も野心的なフェーズに突入します。それがGnosis 3.0です。

Gnosis 3.0は、GNOトークンを軸に結びついた、価値観を共有するプロジェクト群の集合体です。その中心にあるのは、決済と金融インフラを根本から変革するというビジョンです。

GnosisDAO

Gnosisエコシステムの中心にあるのは、GnosisDAOです。ここでは、コラボレーションによって生まれる力を分散型のかたちで引き出しています。GnosisDAOは、分散型ガバナンスを大切にするという私たちの姿勢そのものです。

コミュニティ主導の意思決定:フォーラムを通じて、誰でもGnosisの未来づくりに参加できます。

透明性の高いガバナンス:Gnosis Improvement Proposal(GIP)は、すべてのプロポーザル(提案)がオープンなプロセスを通じて議論され、より良い形へとブラッシュアップされていきます。

トークンによる投票:GNOトークンホルダーは、Snapshotを使ってプロポーザルに投票します。可決されたプロポーザルは、自動的にオンチェーンで実行されます。

戦略的なトレジャリー運用:karpatkeyが管理するトレジャリーは、エコシステムの長期的な成長を推進するために活用されています。

GNOトークンは、ガバナンス、分散性、経済的な連携を結びつける、エコシステムの要です。GNOトークンホルダーはプロポーザルへの投票を通じて意思を示し、Gnosis Chainをステーキングによって支え、エコシステム全体のプロジェクトとインセンティブを共有する役割を担っています。

Gnosis Chain:私たちのビジョンを支える土台

Gnosis Chainは、「検閲耐性」と「信頼できる中立性」という私たちの信念を、技術として体現する存在です。

分散型のセキュリティ:30万以上のバリデーターによって支えられ、その多くは自宅でノードを稼働しています。中央集権的なクラウドに依存しない、レジリエントなネットワークを実現しています。

アクセシビリティ:10万ガスあたりわずか0.0001ドル。高額な手数料を払える人だけのものではなく、すべての人に開かれたブロックチェーンです。

コミュニティによるガバナンス:GnosisDAOによる分散型の意思決定を通じて、ネットワークの中立性が保たれています。

Ethereumとの互換性:Ethereumの代わりではなく、その可能性を広げる存在として機能します。

これは単なるインフラではありません。
機関ではなく「個人」を主役とする、新しい金融システムの基盤なのです。

Gnosisのプロダクトエコシステム:価値観を形に

Gnosisが展開する各プロダクトは、私たちの価値観を実生活に役立つツールとして具現化したものです。

Gnosis Pay:世界初の分散型決済ネットワーク

Gnosis Payは、TradFi(伝統金融)とDeFi(分散型金融)の間の壁を取り払い、真の金融主権を実現するという私たちのビジョンを表しています。

セルフカストディアル(自己管理)型のVisaデビットカード:世界初のセルフカストディ型Visaカードは、Visaが使える場所ならどこでも、保有するデジタル資産で決済できます。

真のセルフカストディ:資金はすべて、Gnosis Chain上で動作するSafeスマートコントラクトに保管され、第三者が管理することは一切ありません。

優位点:為替スプレッドはゼロ、最大5%のキャッシュバックを提供します。

開発者向けインフラ:ウォレット、DeFiプラットフォーム、dAppsとの連携を可能にする、パーミッションレスなAPIを提供しています。

グローバル展開:ヨーロッパをはじめとして、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、メキシコなど世界各国で利用可能になります。

DeFiとの相互運用性:ステーキング資産からの自動チャージ、ステーブルコイン担保による借り入れ、高利回りの貯蓄など、革新的な金融機能を実現します。

Gnosis Payは、「真の金融主権」は利便性やグローバルな使いやすさを犠牲にしなくても実現できることを証明します。たとえば、ZealはSafeテクノロジーを用いて、資産の管理権を完全に保ちながらDeFiで支払いができる、世界初のセルフカストディ型ウォレットです。Picnicは、メールアドレスに紐づいたスマートウォレットを使って、仲介者なしでデジタル資産への投資をシンプルにする分散型投資プラットフォームです。これらのプロダクトは、分散型システムと日常の金融行動を繋ぐ、私たちの理念を形にしたものです。

Circles:通貨の創造を、すべての人へ

Circlesは、お金の仕組みを根本から変えようとしています。中央集権的な管理を取り払い、誰もが自分自身の通貨を発行できるようにすることで、仲介者ではなく信頼を土台とした分散型の経済を築いていきます。

誰でも、いつでも発行可能:すべてのユーザーが、1時間あたり1CRCという一定のペースで自分の通貨(CRCトークン)を継続的に発行できます。

公平性を保つ仕組み:年間7%のデマレージ(通貨の自動減価)によって、1日1CRCを発行できる権利の価値が将来にわたって保たれます。

信頼に基づく価値の創出:Circlesにおける通貨は、友人、家族、ご近所といった現実の人間関係に支えられて流通します。通貨とはコインやコードだけではなく、人間の信頼という社会的な繫がりそのものなのだということを、Circlesは証明しています。

グループ通貨の仕組み:コミュニティごとに共通のトークン(Groupトークン)を発行することで、個人のCRCトークンを交換可能にし、地域内での流通を促します。

地域経済の活性化:グループ通貨は、ローカルでの取引、グループ内融資、より広い受け入れを可能にしながら、Circles全体のネットワークにも連動しています。

既存金融との接続:信頼をベースにしたグループ構造は、従来の金融システムや新興のDeFiアプリケーションとの統合もスムーズにします。

Circlesが描くのは、仲介者ではなく「人と人との信頼」を通じて価値が流れる、本当の意味でユーザー中心の通貨です。金融主権とコミュニティの自律性に対する私たちの思いを、Circlesはそのまま映し出しています。

Metri:お金の新時代を、すべての人に

Metriは、誰でも使えるCirclesの公式ウォレットです。支払い、信頼、そして自己管理をもっとシンプルに。そんな私たちのビジョンを体現したプロダクトです。

真のオーナーシップ:銀行や仲介者を通さず、自分の資産を自分の手で管理できます。

簡単で安全な導入:パスワードやシードフレーズに悩まされることなく、セキュアなセルフカストディを実現します。

日常使いに最適:Gnosis Payとシームレスに連携し、Visaが使える場所ならどこでも支払いが可能です。

トークンの交換もスムーズ:CoW Swapを通じて、アプリ内に手軽にUSD、EUR、GBPをスワップできます。

いつでも、どこへでも送金可能:時間や場所に縛られず、自由に送金できます。

Circlesとの統合:ユーザーが発行したCRCトークンを、信頼ネットワーク上でやり取りできます。

Metriは、ただのウォレットではありません。セキュリティと日常の使いやすさ、どちらも妥協せずに設計された、新しい時代の金融ツールです。

Gnosis AI:Web3におけるAIエージェントの集約点

Gnosis AIは、AIとブロックチェーンが交差する未来を見据えた、私たちのビジョンを体現する取り組みです。

エージェント同士の支払い:自律的な経済エージェント同士が直接やり取りできる新しいインフラを構築しています。

AI駆動の予測市場:市場の効率と精度を高める、AIトレーディングエージェントの開発を進めています。

トゥルース・オラクル(真実の予測):集合知を活かし、未来を予測して意思決定に活用できる新たなマーケットの実現を目指しています。

オープンな開発体制:オープンソースリポジトリで、外部からの貢献も歓迎しながら共同開発を進めています。

私たちは、AIがGnosis Chain、そしてGnosisエコシステム全体にもたらす可能性は非常に大きいと信じています。すでにGnosis Chain上では、自律エージェントによる支払いトランザクションが週に1万〜2万件も発生しており、AI経済のインフラとしての実用性が現実のものになりつつあります。

プロダクトの先へ:新たな金融パラダイムの構築

Gnosisエコシステムは、単なるプロダクトの集合ではありません。それぞれのプロジェクトが密接につながることで、「お金の創造と流通を支配するのは機関ではなく、個人である」という一貫したビジョンを体現しています。

ここでは、コミュニティが自らの経済ルールを定めます。押し付けられた仕組みに従う必要はありません。価値はネットワークを越えて自由に流れ、セキュリティを犠牲にすることもありません。金融ツールは人々に奉仕するものであり、搾取の手段ではありません。そして、人間の知恵と機械の知能が協力することで、より効率的で公平なマーケットが築かれていきます。

これからの道:橋をかけ、価値をつなぐ

ブロックチェーンの技術は、「人と人とが直接やりとりできる電子的なお金」というSatoshiの夢(ビットコイン)から始まりました。しかし、その実現には技術だけでは不十分です。人間のニーズに寄り添うシステムが必要です。Gnosisは、「可能性と意志の交差点」に立ち、分断ではなく連帯を生むテクノロジー、つまり、誰もが使えるオープンインターネットを築くことを目指してきました。Gnosis 3.0 はそのビジョンを、いよいよ現実のものにしていく挑戦です。

私たちが創っているのは、ただ動作する金融インフラではありません。
私たちの揺るがない指針、「金融とデジタルにおける自己決定権」と「経済的な公平さ」に真にふさわしいシステムを築こうとしています。それは、単なるバズワードではなく、私たちのすべての取り組みに通底する遺伝子と言えます。この価値観は、「信頼できる中立性」、「自由を守る検閲耐性」、そして「機関ではなく個人が持つ自己主権」というかたちで、具体的に組み込まれています。

つまり、私たちが創るインフラは、ただ技術的に動くだけではなく、人間のために機能するものなのです。デジタルの国境を取り払い、金融の自由を解き放つ。それこそが、私たちが最初から目指してきたことです。

そして私たちは今、次のステップを見据えています。それは、Web3と伝統的金融のあいだに橋をかけること。最も多くの人々と価値が集まる場所が、まさにこの交差点です。こうした人々をWeb3に引き入れ、今はまだ限定的にしか使われていない強力なプロトコルへのアクセスを提供することで、私たちはWeb3のマスアダプションへ向けた道を切り拓いていきます。

このアプローチが真に成功したと言えるのは、一般ユーザーが「ブロックチェーンを使っている」とすら意識せず、ただ、今使っているプロダクトがこれまでのオプションよりも明らかに優れていると感じたときです。Gnosis Pay、Metri、Circles、そしてGnosis Chainが支えるインフラ。私たちのプロダクト群はすべて、そうしたシームレスな体験のために設計されています。

オープンインターネットとは、ただ「繋がる」ことではありません。それは、人々が力を持ち、自ら価値を創り出していく世界のことです。

この未来を、ともに築いていくなかで、私たちの意思は決して揺らぎません。

  • 可能性を広げるツールをつくること。
  • 人間性を尊重するシステムを築くこと。
  • 誰もが恩恵を受けられる公平な金融環境を形にすること。

共に未来へ。共に高みへ。
Gnosis:オープンインターネットを、いちブロックずつ。


あとがき

技術集団Gnosisは、Safe(旧Gnosis Safe)やGnosis Chain、Metri、Circlesなど、多岐にわたるプロダクトを展開しています。EVM系の開発者ならその名を知らぬ者はいないでしょう。しかしその一方で、一般ユーザー、中でもアジア圏における認知度はまだ限定的だと感じています。彼らの本拠地であるドイツ・ベルリンで毎年「DappCon」という大規模カンファレンスを主催するなど、エコシステム全体の活性化にも尽力しています。

ちなみに、インテントベーススワップのCoW Swapも、元々はGnosisチームから生まれたプロジェクトです。

以前にCoW Swapについても記事にしていますので、興味がありましたらぜひご覧ください。

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