Unichainホワイトペーパー日本語訳
Unichainのホワイトペーパーを調べながら読んだので、和訳しました。
Unichainのホワイトペーパーを調べながら読みました。
共著者
- Hayden Adams [email protected]
- Mark Toda [email protected]
- Alex Karys [email protected]
- Xin Wan [email protected]
- Daniel Gretzke [email protected]
- Eric Zhong [email protected]
- Zach Wong [email protected]
- Daniel Marzec [email protected]
- Robert Miller [email protected]
- Hasu [email protected]
- Karl Floersch [email protected]
- Dan Robinson [email protected]
Abstract(要約)
Unichainは、マーケットの効率化を目指した「オプティミスティックロールアップ」型の技術です。このシステムは高速な状態更新を提供し、アプリケーションがMEV(最大抽出価値)を内部で処理できる仕組みを備えています。また、異なるブロックチェーン間での素早い決済を実現するための経済的なファイナリティ(最終性)システムも提供しています。
1. Introduction(はじめに)
Ethereum(イーサリアム)の「ロールアップ中心のロードマップ」は、ここ数年でロールアップの普及を通じてオンチェーンの活動をスケールアップすることに成功しました。しかし、このアプローチには新たな課題も発生しており、特にDeFiエコシステムでは、トレード実行の質が低下したり、ユーザーエクスペリエンスが悪化したり、流動性が分散するなどの問題が生じています。
本論文では、こうした主要な課題に対応するために、OP Stack [16] 上に構築された「Unichain」というオプティミスティックロールアップを提案します。Unichainは、以下の2つのイノベーションによりこれらの問題に対処します:
- 検証可能なブロック構築
Flashbotsとの協力により構築されたブロック構築メカニズムで、以下の機能を提供することを目指します。- 各ブロックを4つの「Flashblock」に分割し、200〜250ミリ秒の実効ブロック時間を実現。
- 各Flashblock内での優先順序を透明性を持って実行し、アプリケーションが一部の最大抽出価値(MEV)をユーザーに還元できる仕組みを提供。
- トラストレスなトレードのリバート(取消し)保護。
- Unichainバリデーションネットワーク
ブロックのシーケンス処理における重要なリスクを低減することを目的に構築された、Unichainノードオペレーターによる分散型ネットワーク。これによりクロスチェーントレードの決済を早め、経済的なファイナリティを迅速化するほか、将来の拡張にも対応可能です。
Unichainは、OP Stack上に構築された拡張性と相互接続性を持つロールアップネットワークである「Superchain」を基盤とし、流動性をスムーズに移動できる環境を促進するために設計されています。また、インテントベースのクロスチェーンブリッジ[21]や、Unichainバリデーションネットワークによる高速なファイナリティ(最終性)と組み合わせることで、Superchainとの接続を通じて、ロールアップユーザーにとって迅速かつ安価で広範囲な流動性アクセスを提供することを目指しています。
Unichainはオープンソースの反復的な開発プロセス(💡 開発を一度で完了させるのではなく、小さな段階で実装・テスト・改善を行い、そのたびにフィードバックを得て次の段階に進む手法)で進められており、そのコードベースは他のOP Stackロールアップでも利用可能です。本論文で説明する機能は、「Unichain Experimental」と呼ばれる一般公開のテストネット上で十分にテストされた後、Unichainのメインネットへと展開されます。
2. PRIOR WORK(これまでの取り組みと現状の課題)
Ethereumは、強固でパーミッションレスかつ中立性の高いネットワークの実現に向けて大きく進展しています。しかし、ブロックチェーン技術の普及に伴い、いくつかの問題が表面化してきました。特に深刻な問題のひとつは、ネットワークの混雑時にガス代が予測不可能かつ高額になることであり、これはスループット(処理能力)の制約が原因です[1, 2]。この問題を解決するため、ロールアップ技術が提案されており、Ethereumコミュニティでもネットワーク全体の処理能力を拡張する主要戦略として推奨されています[6]。現在、人気の高いロールアップ技術は、OP Labs[16, 17]やOffchain Labs[12]などによって開発されています。
しかし、多くのロールアップでは、シーケンサー(トレードの順序を決定する役割)が設定したブロック構築プロトコルに従うという信頼が必要とされています。さらに、ユーザー間で最大抽出価値(MEV)の獲得を可能にするブロック生成環境があることで、市場やアプリケーションの効率が低下する問題もあります。このMEV抽出リスクを軽減するため、プライベートメモリプールといった解決策が導入されましたが、これには単一障害点が発生するという課題が伴います[2, 9, 15, 18]。その解決策として、信頼できる実行環境(TEE)が提案されています[10]。
また、Uniswap Labsが先駆者となった自動マーケットメーカー(AMM)[3–5]は、Ethereumのようなブロックチェーン上で大きな成長を遂げてきました[22]。AMMは流動性提供をパーミッションレスで可能にし、デジタル資産のトレードに革命をもたらしましたが、新たな課題も出てきています。具体的には、ブロックチェーンの長いブロック生成時間がオンチェーンの流動性提供者に不利な選択リスクを増大させることや[13, 14]、パブリックメモリプールや制約のないトランザクション順序がサンドイッチ攻撃を引き起こしうることが問題となっています[19]。
これらの課題に対処するため、Unichainは2つの主要な機能である「検証可能なブロック構築」と「Unichainバリデーションネットワーク」を導入します。この機能は、前述の研究や革新からインスピレーションを得ています。
3. VERIFIABLE BLOCK BUILDING(検証可能なブロック構築)
ブロックの構築は、MEV(最大抽出価値)の漏れや遅延の特性を左右する重要な要素です。Unichainは、ユーザーエクスペリエンスと価値の保護を最適化しつつ中立性を維持するため、新しいブロック構築プロトコルを採用しています。これは、Flashbotsと共同開発した「Rollup-Boost」[11]によって実現されています。
3.1 シーケンサーとビルダーの分離
Unichainでは、Flashbotsとの協力で構築された「検証可能なブロックビルダー」を導入し、シーケンサーの役割とブロック構築の役割を分離しています。ブロック構築は信頼できる実行環境(TEE)の内部で行われ、これにより外部ユーザーが指定された順序ルールに従っているかを検証できるようになっています。TEEは、従来のサーバーと比較して、より高い信頼性とセキュリティを提供します。
最初のTEEビルダーはIntelのTDXハードウェア上でオープンソースのビルダーコードベースを実行します。このハードウェアはプライベートデータのアクセスと計算の整合性による検証可能な実行を提供します[7]。実行の証明は公開され、ユーザーがブロックが指定されたポリシーに基づいてTEE内で構築されたことを検証できるようになっています。
TEEを用いたブロック構築はロールアップにとって強力な基盤であり、恣意的なブロック順序のリスクを軽減するだけでなく、透明性を持った段階的な改善の枠組みを提供します。
3.2 Flashblocks
Flashblocksは、TEEブロックビルダーによって発行されるブロックの事前確認情報です。ブロック生成時間を短縮することで、流動性プロバイダーの不利な選択コストが軽減され[13, 14]、ユーザーの遅延が減り、より効率的なオンチェーンマーケットが促進されます。トランザクションがTEEビルダーに送信されると、TEEビルダーはそれを順次Flashblocksにコミットします。Flashblocksは、後に提案されるブロックに含まれる予定のトランザクションが順序付けされたセットです。シーケンサーはこれらのFlashblocksを未確定ブロックとして配信し、ユーザーやアプリケーション、インテグレーターに、デフォルトよりも数倍速いブロックタイムのエクスペリエンスを提供します。
現在の多くのロールアップアーキテクチャでは、トランザクションのシリアライズやステートルートの生成による高い固定遅延が発生し、サブセカンド(1秒未満)のブロック生成時間を実現することは困難です。しかし、Flashblocksは短期間でこの処理を回避し、低遅延のブロックチェーンインタラクションを可能にします。
さらに、TEEは各Flashblockの優先順位を強制的に順序付けし、特定のFlashblockへのトランザクションの配置を希望するユーザー向けにFlashblockバンドルタイプもサポートします。この2つの機能の組み合わせにより、MEVの一部をユーザーに還元する「MEV税」[20]など、アプリケーションがユーザーに利益をもたらす形でMEVを活用できる仕組みが提供されます。
3.3 トラストレスなリバート(取り消し)保護
検証可能なブロックビルダーにより、トラストレスなリバート保護が実現され、ユーザーが失敗したトランザクションに対してガス代を支払うリスクが軽減されます。TEEはブロック構築中にトランザクションをシミュレーションし、リバートするトランザクションを検出して取り除くように設計されています。
このリバート保護によりユーザーの負担が軽減され、AMMやインテントベースのシステムの効率が向上します。これにより、参加者は自身のトランザクションに対してより高い信頼を持つことができるようになります。
3.4 今後の取り組み
検証可能なブロックビルダーは、Unichainの将来的な多くの改善の基盤として活用できます。今後検討される機能には以下が含まれます:
- 暗号化メモリプール: ユーザーがトランザクションを暗号化できるようにすることで、トランザクション実行前のプライバシーを強化します。
- スケジュールトランザクション: TEEを活用して、ユーザーやスマートコントラクトが特定の日時や繰り返し実行のための自動トランザクションを設定できるようにすることが可能です。
- TEEサポートプロセッサ: スマートコントラクトがプライベートで検証可能な計算を要求できるように、TEEがコプロセッサとして機能するようにすることが考えられます。
4. UVN(Unichainバリデーションネットワーク)
Unichainは、シングルシーケンサーアーキテクチャに伴うリスクに対処するため、独立したノードオペレーターの分散型ネットワークである「Unichain Validation Network(UVN)」を導入しています。このネットワークでは、複数のノードが最新のブロックチェーンの状態を個別に検証します。ロールアップは基盤となるブロックチェーンの強力なセキュリティに守られていますが、シーケンサーの動作によってブロックチェーンのライブネス(稼働性)、MEVのダイナミクス、およびファイナリティ(最終性)が影響を受ける可能性があります。UVNは拡張性のあるプラットフォームであり、初期の段階ではファイナリティを迅速化するためのブロック検証に重点を置いています。
シングルシーケンサーを使用するロールアップでは、クロスチェーン決済の速度に影響を与える2つの主要なリスクが発生します:
- ブロック矛盾リスク: シーケンサーが同じブロックの位置で複数の矛盾するブロックを提案する可能性があり、最終的にどのブロックがファイナライズされるかが不確実になるリスク。
- 無効ブロックリスク: シーケンサーが無効なブロックを投稿し、フォールトプルーフ(誤り証明)が提出されチェーンのリバート(巻き戻し)が発生し、決済がさらに遅延するリスク。
これらのリスクは、ブロックチェーンのファイナリティを達成するまでの待機時間を長引かせ、ネットワーク間での流動性のスムーズな移動を妨げます。UVNは、バリデーターがブロック提案時に正規のチェーンを証明することでこれらの課題に対応し、経済的なファイナリティをより迅速に提供します。
4.1 ステークされるバリデーター
UVNでバリデーターになるためには、ノードオペレーターがEthereumのメインネット上でUNIトークンをステークする必要があります。これらのステークはUnichain上のスマートコントラクトで追跡され、ネイティブブリッジを通じてステークおよびアンステーク操作の通知を受け取ります。Unichainのブロックは一定の長さでエポック(周期)に区切られ、各エポックの開始時に現在のステーク残高がスナップショットされ、ブロックチェーン手数料が回収され、ステークトークンごとの報酬が計算されます。
参加者は、バリデーターに投票とステークを行うこともでき、これによりバリデーターのステークウェイト(重み)が増加します。最も高いUNIステークウェイトを持つ限られた数のバリデーターが「アクティブセット」として選出され、エポック期間中に証明(アテステーション)を投稿し、報酬を得る資格が与えられます。
アクティブなバリデーターはオンラインで稼働し、提案されたUnichainブロックの検証を行うために、計測機能を備えたReth Unichainノードを運用することが求められます。バリデーターはブロックハッシュに署名し、ネットワークに対するブロックの有効性を証明する公開アテステーションとして、各エポックごとにUnichainのUVNサービススマートコントラクトにこれらのアテステーションを投稿します。サービススマートコントラクトはこれらのアテステーションを検証し、バリデーターのステークウェイトに基づいて即時に報酬を支払います。エポック内で有効なアテステーションを投稿できなかったバリデーターには報酬が支払われず、その報酬は次のエポックに持ち越されます。
各アテステーションで実行される具体的なチェックは拡張可能です。初期段階では、UVNバリデーターはシンプルなブロックアテステーションを行い、正規チェーンの状態に対する信頼性を高めます。
5. POTENTIAL FUTURE WORK(将来可能性のある取り組み)
Unichainバリデータネットワークは、シーケンス処理に関連する様々なチェックを実行するためのプラットフォームとして機能します。今後の拡張として、以下のような機能が検討されています:
- 信頼性のある中立性の確保: バリデーターがロールアップのメモリプールを監視し、トランザクションが適時に含まれていることを確認します。
- 投稿制限: BatchPosterコントラクトがブロックを含む前に、特定のアテステーションの重み(賛成の証明)を要求し、シーケンサーが特定のルールに従わないブロックを投稿する能力を制限します。
6. CONCLUSION(結論)
Unichainは、Ethereumのロールアップ中心のスケーリング戦略における流動性の分散や非効率なクロスチェーンの相互運用といった、トレードに関する課題に対処しています。FlashblocksやUVN(Unichainバリデーションネットワーク)のような革新的な技術の導入に加え、Superchainとの統合を通じて、UnichainはDeFi流動性の拠点となり、ロールアップ全体でDeFiにアクセスするための最適なプラットフォームを目指しています。
REFERENCES
[1] Austin Adams. 2024. Layer 2 be or Layer not 2 be: Scaling on Uniswap v3. arXiv preprint arXiv:2403.09494 (2024).
[2] Austin Adams, Benjamin Y Chan, Sarit Markovich, and Xin Wan. 2023. Don’t Let MEV Slip: The Costs of Swapping on the Uniswap Protocol. arXiv preprint arXiv:2309.13648 (2023).
[3] Hayden Adams. 2018. Uniswap v1 Core. Retrieved Jun 12, 2023 from https: //hackmd.io/@HaydenAdams/HJ9jLsfTz
[4] Hayden Adams, Noah Zinsmeister, and Dan Robinson. 2020. Uniswap v2 Core. Retrieved Jun 12, 2023 from https://uniswap.org/whitepaper.pdf
[5] Hayden Adams, Noah Zinsmeister, Moody Salem, River Keefer, and Dan Robinson. 2021. Uniswap v3 Core. Retrieved Jun 12, 2023 from https://uniswap.org/ whitepaper-v3.pdf
[6] Vitalik Buterin. 2020. A rollup-centric ethereum roadmap. https://ethereummagicians.org/t/a-rollup-centric-ethereum-roadmap/4698
[7] Victor Costan and Srinivas Devadas. 2016. Intel SGX Explained. Cryptology ePrint Archive, Paper 2016/086. https://eprint.iacr.org/2016/086
[8] Philip Daian, Steven Goldfeder, Tyler Kell, Yunqi Li, Xueyuan Zhao, Iddo Bentov, Lorenz Breidenbach, and Ari Juels. 2020. Flash boys 2.0: Frontrunning in decentralized exchanges, miner extractable value, and consensus instability. In 2020 IEEE Symposium on Security and Privacy (SP). IEEE, 910–927.
[9] Flashbots. [n. d.]. MEV Protection Overview. https://docs.flashbots.net/flashbotsprotect/overview
[10] Flashbots. 2022. The Future of MEV is SUAVE. https://writings.flashbots.net/thefuture-of-mev-is-suave
[11] Flashbots. 2024. Introducing Rollup Boost. https://writings.flashbots.net/ introducing-rollup-boost
[12] Harry Kalodner, Steven Goldfeder, Xiaoqi Chen, S Matthew Weinberg, and Edward W Felten. 2018. Arbitrum: Scalable, private smart contracts. In 27th USENIX Security Symposium (USENIX Security 18). 1353–1370.
[13] Jason Milionis, Ciamac C Moallemi, and Tim Roughgarden. 2023. Automated market making and arbitrage profits in the presence of fees. arXiv preprint arXiv:2305.14604 (2023).
[14] Jason Milionis, Ciamac C Moallemi, Tim Roughgarden, and Anthony Lee Zhang. 2022. Automated market making and loss-versus-rebalancing. arXiv preprint arXiv:2208.06046 (2022).
[15] Robert Miller. 2023. MEV-Share: programmably private orderflow to share MEV with users. https://collective.flashbots.net/t/mev-share-programmably-private-orderflow-to-share-mev-with-users/1264
[16] Optimism. [n. d.]. Optimism Docs. https://docs.optimism.io/
[17] Optimism. 2019. Introducing the OVM. https://medium.com/plasma-group/introducing-the-ovm-db253287af50
[18] COW Protocol. [n. d.]. MEV Blocker. https://cow.fi/mev-blocker
[19] Dan Robinson and Georgios Konstantopoulos. 2020. Ethereum is a Dark Forest. https://www.paradigm.xyz/2020/08/ethereum-is-a-dark-forest
[20] Dan Robinson and Dave White. 2024. Priority Is All You Need. https://www.paradigm.xyz/2024/06/priority-is-all-you-need
[21] Mark Toda, Matt Rice, and Nick Pai. 2024. ERC-7683: Cross Chain Intents: An interface for cross-chain trade execution systems. https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-7683
[22] RT Watson. 2024. Uniswap hits a historic $2 trillion in trading vol-ume. https://www.theblock.co/post/286679/uniswap-hits-a-historic-2-trillion-in-trading-volume
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