Unisocksとは?クリプト界の「例のソックス」
クリプト界で話題になったUniswapの「Unisocks」。AMMによって価格が変動するトークンと、実物のソックスを組み合わせた試みは、クリプト業界に新たな可能性を提示した。その仕組みと、その後の展開について記した。

Uniswapが発行したUnisocks(ユニソックス)というものをご存じだろうか。私はその名をしばしば目にするものの、その詳細については曖昧なままだった。そこで、改めて調査することにした。
Unisocksは、2019年5月9日にニューヨークで開催されたFluidity Summitでアナウンスされた。
🧦 Announcing Unisocks - a limited edition, dynamically priced sock!!!
— Uniswap Labs 🦄 (@Uniswap) May 9, 2019
Now purchasable on https://t.co/fJv6jrJwCL pic.twitter.com/KnUfPprvj7
2024年2月8日現在では、unisocks.exchangeはhttps://socks.uniswap.org/にリダイレクトされ、ウィンドウには「Initializing...」が表示されるのみとなっている。
Unisocksプロジェクトの目的
Unisocksとは、現実の商品である特製ソックスと、ERC-20トークン(SOCKS)を組み合わせたプロダクトである。AMM(自動マーケットメーカー)を用いることで、SOCKSの需要と供給に応じて価格が動的に変化する仕組みを備えていた。この試みは、まさに実験的なプロジェクトだったと言える。
このプロジェクトは、Uniswapの@NoahZinsmeisterと@_callilによって実現され、デザインは@leandercapuozzoが担当し、セキュリティレビューは@DeanEigenmannが手がけた。
当時としては極めて斬新な試みであり、AMMという仕組みを、誰にとっても身近な「ソックス」を媒介として示した点が特徴的だった。AMM黎明期ならではの発想であり、その意義は技術的な実験を超えて、概念の可視化にあったと言える。
Unisocksの価格カーブと流動性プールの仕組み
Unisocksは、ボンドカーブという価格モデルを採用しており、SOCKSトークンの需要と供給に応じて価格が自動的に変動する仕組みになっている。
誰かがSOCKSトークンを購入すると、プール内のSOCKSトークンの数が減少し、それに伴って価格が上昇する。逆に、ユーザーがSOCKSトークンを売却すると、プール内のトークン数が増加し、価格は低下する。この単純な動作が、ボンドカーブというモデルの本質であり、供給量の変化が即座に価格に反映される点が特徴的である。

- 1足目のSOCKS価格
Uniswapの流動性プールには、500 SOCKSと35 ETHがデポジットされた。これにより、SOCKSの初期価格は0.07 ETHに設定される。当時のレート(1 ETH = 170.29ドル)を基準にすると、約11.92ドルとなる。
(500 SOCKS/35 ETH
=0.07 ETH
) - 499足目のSOCKS価格
ボンドカーブの特性として、価格は指数関数的に上昇する。そのため、499足目のSOCKSを購入しようとすると、その価格は100万ドルを超える水準に達する。もはや実用的な範囲を逸脱した額であり、実験的な試みであることが改めて強調される。 - 最後の1足、500足目のSOCKS価格
ボンドカーブの計算上、500足目のSOCKSトークンの価格は無限に近づく。理論的には、世界中のすべてのETHをかき集めたとしても購入できない計算になる。つまり、このシステムにおいて、最後の1足は決して手に入らないことが、数式によって保証されているのだ。
リアルソックスとの交換とバーン
SOCKSトークンのホルダーは、それを本物の特製Unisocks(ソックスペア)と交換することができる。交換時には、ボーナスとしてUnisocks NFTが付与される仕組みになっている。
SOCKSトークンは交換時にバーンされるため、ウォレットから完全に消滅する。このNFTは、そうした「喪失」に対する一種の記念碑のようなものであり、単なるデジタル証明書を超えた、形を変えた所有の概念を示唆しているのかもしれない。
🦄🔥🧦🦄🔥🧦🦄🔥🧦🦄🔥🧦🦄
— Uniswap Labs 🦄 (@Uniswap) October 22, 2019
The day is finally here - Unisocks redemption is live!!!
Visit https://t.co/fJv6jrrVLd to redeem your $SOCKS for luxury socks shipped anywhere in the world.
1/ pic.twitter.com/ChRvgVbG40
SOCKSの購入単位と交換ルール
Unisocksの公式サイトunisocks.exchangeでは、SOCKSの購入は常に自然数単位で行われた。しかし、SOCKSがERC-20トークンである以上、Uniswap上では0.0001 SOCKSといった小数単位での取引も可能である。
もっとも、こうした細分化されたSOCKSまで本物のソックスと交換可能にすると、Uniswap側の送料負担が膨大になる。たとえば、0.0001 SOCKSを持つユーザーがリアルソックスを請求できるとなれば、物流コストはもはや無視できない。
この問題を回避するため、Uniswap公式は 「リアルソックスへの交換は 1 SOCKS から」 というルールを正式に定めた。この制約によって、トークンの分割性と物理的商品の提供との間に、一定のバランスが保たれることになった。
You can’t. You need 1 SOCKS to redeem!
— Uniswap Labs 🦄 (@Uniswap) June 24, 2019
リアルソックスとの交換に使用されたSOCKSトークンは、バーン(焼却)され、供給量から永久に除外される。この仕組みによって、流通するSOCKSの総数は次第に減少し、その希少性が高まることになる。
供給量の減少は、単純な経済原理に従えば価格の上昇要因となる。つまり、Unisocksは、トークンの利用と同時に、その希少価値を高める設計が施されていたと言える。

プールの生存期間は100日間のみ、残存SOCKSはすべてバーン
当初、Unisocksプロジェクトには100日間の限定運用というルールが設けられていた。期間終了後、流動性プールが除去され、残存するETHおよびSOCKSトークンが回収される。そして、最終的にすべてのSOCKSトークンがバーンされ、供給が完全に停止する予定だった。
しかしながら、このルールは実行されなかったという話がある。Uniswapチームは、最終的に残存する55足分のSOCKSトークンを回収し、それらをバーンするか、あるいはリアルソックスに交換することを検討していると発表している。後に続く議論や判断によって運命が変わるという点においても、Unisocksは興味深い事例のひとつと言えるだろう。
The 55 SOCKS withdrawn will be burned/redeemed for real socks by our team.
— Uniswap Labs 🦄 (@Uniswap) June 9, 2020
We haven’t yet decided what to do with the 55 real socks we now have. Probably give them to friends / family.
Unisocks現物ギャラリー
SOCKSをバーンして本物のソックスを手にした@cjliu49さん。
Uniswapファウンダーである@haydenzadamsさんのサイン付きで、パッケージ細部までこだわりが感じられる。
Baby’s first cryptographic token -> algorithmically priced physical goods transaction!
— calvin (@cjliu49) November 4, 2019
@UniswapExchange $SOCKS #thefootureisnow pic.twitter.com/gwKto6fwwL
🦄🔥🧦🦄🔥🧦🦄🔥🧦🦄🔥🧦🦄
— Uniswap Labs 🦄 (@Uniswap) October 22, 2019
The day is finally here - Unisocks redemption is live!!!
Visit https://t.co/fJv6jrrVLd to redeem your $SOCKS for luxury socks shipped anywhere in the world.
1/ pic.twitter.com/ChRvgVbG40
Unisocksが与えた影響
2019年11月、ETHGlobalでEthereumファウンダ、@VitalikButerinがUnisocksを履いて登壇した。
computer... Enhance!
— ETHGlobal (@ETHGlobal) November 9, 2019
@UniswapExchange Unisocks spotted on @VitalikButerin at @ethwaterloo2 pic.twitter.com/leeAwy3aAC
2020年9月、UniswapはUNIトークンのエアドロップを発表した。この配布対象には、Uniswapを過去に利用したアドレスが含まれていたが、特筆すべきは、SOCKSトークンを過去に取引した人や、現在も保有している人にも割り当てが行われたことだ。Unisocksが単なる実験的プロジェクトではなく、Uniswapエコシステムの一部として認識されていたことがうかがえる。
さらに、2021年2月には、DecryptoによってSOCKSトークンのマーケットキャップが2000万ドルを超えたことが報じられた。もはや単なる「靴下のトークン」ではなく、投機的な資産としての価値が市場に認識されている証だ。

2024年6月、Uniswap LabsのNiko氏が「Uniswap従業員用のソックス」が存在していることを明らかにした。
Unisocks from our 2024 onsite
— niko (@nikokampouris) June 11, 2024
This is peak sock design 😍 pic.twitter.com/fUu98Jp6og
もちろん、本記事のSOCKSトークンとは無関係のチームグッズだ。しかし、このソックスがUniswap内部で特別な存在であることはうかがえる。
クリプトユーザの中には、「歴史の一部」として壁に飾って愛でている人もいるようだ。
Finally, I framed my Unisocks, a small piece of our history
— edgar.eth 🦉 (@edgar_eth) September 14, 2024
(together with @akontown’s pieces) pic.twitter.com/MsY7LgSLWl
さらに、SOCKSトークンホルダの中には、ENSをソックスに由来する名前にしている人もいる。
Unisocksプロジェクトのその後(最終更新: 2025年2月8日)
2020年10月、Uniswapは182足がERC-20トークンからリアルソックスに交換されたことを発表した。
2025年2月8日時点で、現存するSOCKSトークン数は298.99枚。そのうちUniswap v3プール内には7.34枚が残っている。
プール内にあるSOCKSは7足のみ。このため、1足あたりの価格は3.89 ETH(10246.44ドル)となる。日本円に換算すると155万円以上。まさに高級ソックスである。

驚くべきことに、SOCKSトークンの取引は今もなお、毎日行われている。
利益を追求するだけの市場とは言い難い。取引を続ける人々には、次のような層が含まれているのだろう。
- クリプト界の伝説的なソックス・カルチャに触れたい人
- Uniswapファン
- 一攫千金を狙う投機的なトレーダ
さらに、SOCKSをバーンすることで得られるNFT は、OpenSeaにも出品されている。その最低価格は13 ETH。SOCKSトークン自体の価格よりもはるかに高い。もはや販売というより、象徴的な展示なのかもしれない。

祝!Unisocks5周年
2024年5月9日、Unisocksの5周年を迎えたちょうどその日に、UniswapはZora上で記念NFT「5OCKS」を発行した。このNFTは、7日間限定で誰でも無料でミント可能だった。Unisocksという実験的なプロジェクトの節目を祝う、Uniswapらしいユーモアと文化的な遊び心が込められた取り組みだった。
Today marks 5 years since Unisocks became the world's first dynamically priced sock, powered by the AMM
— Uniswap Labs 🦄 (@Uniswap) May 9, 2024
So we're celebrating with a limited-time mint
"5OCKS" 🧦 pic.twitter.com/8jsuaOPOv9
Happy 5th birthday Unisocks 🧦💜 pic.twitter.com/pMmUHtxCEV
— Hayden Adams 🦄 (@haydenzadams) May 10, 2024
あとがき
Uniswapとソックス。
一見すると突拍子もない組み合わせが生み出したこのカルチャは、2025年の今でもX上で頻繁に語られ、コミュニティに愛され続けている。
AMMによって価格が決定されるソックス。この革新的なプロジェクトは、単なるジョークでは終わらなかった。ブロックチェーンには、今や伝説的な「あのソックス」として刻まれている。
この調査を通じて、Uniswapの大胆な実験が、単なる試みではなく、今なお息づくクリプトカルチャの一部となっていることを改めて実感した。オリジナルグッズを配布するプロジェクトは数多いが、ここまでオンチェーンに刻み込む試みを成功させた例は、Uniswapをおいてほかにないだろう。