CoWとは何か?CoW Swapの仕組みと魅力

P2Pと流動性プールの合わせ技。インテントベースの次世代アグリゲーター、CoW Swap。その基本原理からMEV対策、手数料削減、リングトレードまで、多彩な利点をわかりやすく紹介します。

CoWとは何か?CoW Swapの仕組みと魅力
Photo by Noah Dustin von Weissenfluh on Unsplash

CoW Swap公式ナレッジベース記事「What are CoWs on CoW Swap?」の日本語訳です。より分かりやすくするため、見出しの追加と少しの意訳を入れています。


Cow。牛。
それは、大きな動物で、何世紀にもわたって家畜として人と暮らしてきました…

でも「CoW」となると、それはまったく別モノです!

CoWとは?

「CoW」は 「Coincidence of Wants(欲求の一致)」 の略で、CoW Swapが生まれるきっかけとなった仕組みです。そして、私たちが「牛」をモチーフにしている理由でもあります。CoWとは、二者間でちょうどお互いが欲しいものを持っていて、直接交換できるという経済の仕組みのことです。2人以上のトレーダーがブロックチェーン上の流動性を使わずに、クリプトを直接交換できたとき、それがCoW Swapにおける「Coincidence of Wants(欲求の一致)」になります。

もう少し分かりやすくするために、具体例を見てみましょうか。

CoWを成立させるには?

たとえばメリディスが、1000ドル分のDAIで0.5 ETHを買いたいとします。ちょうどそのタイミングで、イーライは0.75 ETHを1500ドル分のDAIと交換したいと思っています。

普通の取引所、たとえばUniswapのようなところでは、メリディスもイーライもETH/DAIの流動性プールを使って、それぞれの取引を行うことになります。

UniswapにおけるETH/DAI取引例

でも、CoW Swapでは別の選択肢があります。

CoW Swapでの注文は、まず「取引したい」という意思表示(Intent/インテント)として署名されたメッセージから始まります。これらの注文は、Uniswapのようなオンチェーンの流動性ソースに送られる前に、ひとまとめにされて処理されます。そのため、条件がそろえば、CoW Swapはユーザー同士の注文をピアツーピア(P2P)でマッチさせることができるのです。

たとえば今回のケースでは、メリディスとイーライがお互いに相手の欲しいものを持っていますね。つまり、メリディスは自分のDAIをイーライに渡し、イーライは自分のETHをメリディスに渡すことで、流動性プールを通さずに直接取引が成立します。このようにして、メリディスはオンチェーンの流動性を一切使わずに希望どおりの取引を完了させることができます。その結果、流動性プロバイダーへの手数料やガス代がかからず、スリッページを回避でき、MEV(最大抽出可能価値)攻撃のリスクも避けられるのです。

CoW SwapにおけるETH/DAIのP2P取引例

つまり、メリディスはイーライの1000ドル分のDAIを受け取り、自分の0.5 ETHを彼に渡します。

ここで注目したいのは、イーライが求めているのは1500ドル分のDAIであり、メリディスが提供したのはそのうちの1000ドル分だけだという点です。イーライの注文の残り500ドル分については、同じバッチ内にもう一度CoW取引ができる相手がいなければ、UniswapやBalancerのようなオンチェーンの流動性プールを通じて補完されることになります。

CoW Swapは、「Coincidence of Wants(欲求の一致)」を自動で見つけてマッチさせ、不足分については最適なオンチェーン流動性を活用して注文を完了させます。
こうした仕組みが可能なのは、CoW Swapが採用している「ソルバー(solver)」と呼ばれる仕組みによって、もっとも効率的な取引経路で注文を実行できる「委任型トレードモデル」を採用しているからです。

CoWのメリット

CoWにはうれしい効果がたくさんあります。MEVからあなたを守ってくれるだけでなく、流動性プロバイダーへの手数料、ガス代、スリッページなど、あらゆるコストを節約できます。しかも、空気中にメタンは一切放出されません ;)

手数料が安い

CoWの最大の魅力は、流動性プロバイダーへの手数料やガス代をスキップできる点です。そのぶん、あなたの取引はより良い価格で成立します。
別のトレーダーと直接アセットを交換する場合、Uniswapのようなプロトコルのオンチェーン流動性を使わないため、LP手数料を払う必要がなく、スマートコントラクトを使った通常の取引よりもガス代も抑えられます。また、CoWの中には、複数の注文をまとめて一括でオンチェーン実行するタイプもあります。こうすることで、1件ずつ処理するよりもガス代がさらに安く済みます。

CoW Swapでは、こうした節約分がすべてあなたに還元され、取引価格がよりおトクになるのです!🉐

MEVからの保護

MEV(最大抽出可能価値)とは、Ethereum上の取引に潜む「見えない税金」のようなもので、取引の失敗や不利な価格の原因になることがあります。あなたがブロックチェーンにトランザクションを送ると、その順序が入れ替えられたり、アルファ情報を狙ったトレーダーに“横取り”されてしまう可能性があるのです。
(CoW SwapがどのようにMEVを解決しているか、詳しくはこちらをご覧ください)

CoWはオンチェーンの流動性を使わないP2Pの直接取引なので、こうしたMEV攻撃の影響を受けません。つまり、あなたの取引が流動性プール経由で他のトレーダーに狙われるようなスキを与えません。言い換えれば、CoWによる取引ではAMM(自動マーケットメイカー)とのやりとりにおいて、トランザクションの順序そのものが意味を持たなくなります。なぜなら、そこにはシンプルにトレーダー同士の直接交換しか存在しないからです。

より小さなプライスインパクト

プライスインパクト(価格変動の影響)は、大きな取引や流動性の低い資産を扱うときに特に気をつけたい要素です。流動性プールに影響を与えるほどの規模の取引を行うと、プール内の資産価格が変動し、結果として不利なレートで取引が成立してしまうことがあるからです。

たとえば、5000ドル分のBNBを購入しようとしたときに、十分な流動性がなければ、実際に受け取れるのは4950ドル相当のBNBだけ…といったケースが起こりえます。これがプライスインパクトです。

CoWでは、こうした大口取引のプライスインパクトをやわらげることができます。取引の一部が別のユーザーとのP2Pでマッチすれば、その分オンチェーンの流動性に頼る必要が減り、マーケット価格への影響も小さくなります。

CoWの種類

CoWが成立するのは、CoW Swapが採用している「委任型トレードモデル」のおかげです。CoW Swapでは、ユーザーは取引を始める際に、トランザクションを直接送る代わりに「取引したい」という署名付きのメッセージ(Intent/インテント)を提出します。この署名メッセージを使うことで、CoWによるマッチングはもちろん、価格の改善、ガス代の最適化など、通常のオンチェーン取引では実現できないさまざまな工夫が可能になります。

CoWにはいくつかの種類があり、それぞれ仕組みの複雑さや得られる価格メリットの大きさが異なります。

シンプルなCoW

CoW SwapにおけるシンプルなCoW例

この記事の冒頭に登場したメリディスとイーライの例は、もっとも基本的な「シンプルなCoW」の一例です。シンプルなCoWでは、互いに相手の欲しい資産を持っている2人のトレーダーが、P2Pで直接スワップを行います。

一方で、同じ取引をUniswapで行う場合は、流動性プールを経由する必要があります。

UniswapにおけるETH/DAI取引例

バッチ型CoW(Batching CoW)

CoW Swapにおけるバッチ型CoW例

もうひとつのタイプのCoWが「バッチ型CoW」です。これは、複数のトレーダーが同じアセットを取引しようとしているときに発生します。たとえば、2人のトレーダーがそれぞれUSDCを使ってETHを買いたい場合、CoW Swapはその注文をひとまとめにし、両方の取引分を合算して、Uniswapのような流動性プールから一度のオンチェーントランザクションで実行します。

この方法なら、取引を個別に処理してそれぞれガス代を払う必要がなくなり、バッチ処理によって全体のガスコストを抑えることができます。

同じ取引をUniswapで個別に行うとどうなるかを示した例がこちらです。ご覧のとおり、CoW Swapではこうした重複処理を省くことができるのです。

Uniswapにおける取引例

経由型CoW(Intermediate CoW)

CoW Swapにおける中間型CoW例

CoW Swapの委任型トレードモデルでは、「経由型CoW」を通じて、さらにガス代の最適化が可能になります。

経由型CoWは、シンプルなCoWに似ていますが、取引が完全な「A→B」「B→A」の形では成立しない点が特徴です。このタイプのCoWでは、取引の途中に中間ステップが必要になります。

例えば、COWトークンをUSDTに交換したい場合、まずCOWをETHに交換し、次にETHをUSDTに交換する必要があるかもしれません。同時に、別のトレーダーがUSDTをCRVに交換したいとすると、今度はUSDT→ETH→CRVという逆のルートを通ることになります。

このとき、ETH↔USDTの部分で「Coincidence of Wants(欲求の一致)」が発生する可能性があります。中間部分でマッチングが成立すれば、それぞれの取引がより効率的に、かつ安く実行できます。

同じ取引をUniswapのような従来の流動性プールで実行すると、どうなるかを比較した図がこちらです。

Uniswapにおける取引例

リングトレードCoW

バッチの中には、複数の注文が互いに絡み合い、同時にいくつもの「Coincidence of Wants(欲求の一致)」が成立するケースがあります。その中でも特にユニークなのが「リングトレード(Ring Trade)」と呼ばれる取引スタイルです。

リングトレードでは、まるで物々交換のように、直接関係のないアセット同士を外部の流動性に頼らずスワップすることができます。これは、CoW Swapならではの「委任型+バッチ処理」が可能にする、非常に高度で柔軟な取引形態です。

リングトレードの具体例を見てみましょう。

リングトレードの例

このシナリオでは、4人のトレーダーが登場します。

  • イーライ(Eli)
  • イーディス(Edith)
  • リリー(Lily)
  • チャウ(Chow)

そして、彼らが取引しようとしているアセットは次の4種類です。

  • ETH
  • USDT
  • COW
  • DAI

それぞれのトレーダーは、自分が持っている資産を、バッチ内の他の誰かが持つ別の資産と交換したいと考えています。ただし今回のように、「ぴったり一致する相手」がいない場合でも、リング状に資産をぐるりと回すことで、全員が望む交換を成立させることができます。

たとえば、イーライはETHをDAIに交換したいと思っています。
そこで、彼のETHはイーディスに渡り、イーディスのUSDTはリリーに、リリーのCOWはチャウに、そしてチャウのDAIがイーライに戻ってくる――という形で取引が完了します。このようにして、イーライは3人を介した「リングトレード」で自分の希望する取引を成立させることができます。

他の3人についても同様です:

  • イーディスはDAIを持っていないにもかかわらず、イーライからETHを受け取ることができます
  • リリーは、チャウ・イーライ・イーディスを間接的に介して、COWをUSDTと交換できます
  • チャウもまた、DAIをCOWに交換する取引を、他の3人のつながりを通じて実現できます

このようなリングトレードは、十分な数の注文が集まったときに成立する、非常にパワフルなCoWの応用例です。

同じ内容の取引をUniswapのようなAMMで実現しようとすると、何段階もの複雑なスワップが必要になり、ガス代も大幅にかさんでしまいます。

Uniswapにおける取引例

CoWは、より良い価格へのチケット

CoW Swapは、「Coincidence of Wants(欲求の一致)」という経済理論を現実のプロトコルに落とし込み、価格の最適化と安全な取引を実現しています。

このプロトコルの中核には注文フローオークションという仕組みがあります。ユーザーは具体的なトランザクションを即座に実行するのではなく、「こんな取引がしたい」という意思(Intent/インテント)に署名します。このインテントをもとに、Solverと呼ばれる実行役が、複数の流動性ソースを組み合わせたり、注文を合成したりして、あらゆる最適化を行います。こうして、CoW、「Coincidence of Wants(欲求の一致)」が成立するのです。

次の取引では、ぜひCoW Swapを試し、おトクでスマートなトレードを、どうぞお楽しみください!

CoW Swap情報

Webサイト:https://cow.fi/
X(旧Twitter):https://x.com/CoWSwap
Discord:https://discord.com/invite/cowprotocol


所感

CoW Swap、牛じゃなかったのですね…🐮
Sushiswap🍣やPancakeSwap🥞のように、モチーフを名前につけているだけだと思っていました。

上手く機能すればとてもおトクにトレードできる仕組みです。ただ、利用者が少ないとP2Pが機能せず一般的なアグリゲーター(Uniswapなど他プロトコルを経由)なので、参加者をどれだけ増やせるかにかかっていそうです。今後が楽しみです!

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